2025/09/30
合理的配慮とは、障がい者が非障がい者と同じように働いたり勉強したりできるよう、制限のバリアを取り除くための行動、措置をいいます。
合理的配慮の提供は2024年から義務化されましたが、配慮を「特別扱い」と取り違えられるケースも多く、周囲から「ずるい」と反感を買ってしまうケースもみられます。
本記事では、合理的配慮が義務化された経緯とその定義を解説し、企業がどのような合理的配慮を実施するべきか、具体例を紹介しながらまとめています。
合理的配慮は、障害のある人の活動を制限するバリアを、さまざまな形で取り除くための配慮のことです。
まずは、「合理的配慮」の定義と、成立に至った経緯や対象となる範囲についてみてみましょう。
合理的配慮とは、「障害のある人の社会的なバリアを取り除くため、事業者側の負担が重すぎない範囲で必要な対応をすること」です。
政府広報では、合理的配慮の提供には障がい者と事業者の対話が重要であり、共に解決策を導き出す必要があると啓蒙しています。
日本では、2021年に「障害者差別解消法」が改正されました。
そして、この改正法は2024年4月1日から施行されています。
改正以前、「合理的配慮の提供」は、行政機関は義務、事業者は努力義務となっていましたが、この改正により事業者に対しても合理的配慮の提供が義務化されました。
合理的配慮を提供しないと、差別的取扱いをしたとみなされる場合があります。
合理的配慮の提供が必要な対象範囲は、身体・知的・精神・発達など心身の機能に何らかの障がいを負っているすべての障がい者が対象です。
障がい者手帳を所持していなくても、学校生活や仕事において長期にわたる制限を受けている、あるいは困難な状況にある場合は、等しく対象となります。
なお、病気や怪我で一時的に身体の制限がある場合は、原則として合理的配慮の対象とはなりません。
合理的配慮は、「物理的環境への配慮」、「意思疎通への配慮」、「ルール・慣行の柔軟な変更」の3つの種類に大別することができます。
物理的環境への配慮の具体例としては、飲食店やオフィスなどで車椅子のまま着席できるスペースを設けることが挙げられます。
意思疎通への配慮は、聴覚障がい者のために筆談を活用する、弱視でも読みやすいように大きな太い文字で資料を作成する、口頭指示の理解が難しい人へ文書を作成して対応する、などが具体例として挙げられます。
ルール・慣行の柔軟な変更については、聴覚過敏の場合にイヤホンをつけて仕事をすることを許可する、時間管理をしやすくするためにアラームを活用する、満員電車が難しい従業員のために時差出勤やリモートワークを許可する、文字の読み書きに時間がかかる人に資料の撮影を許可するといったことが具体例として挙げられます。
いずれも、障がいや特性を理解してそれぞれに合った配慮が求められます。
対話を重ねて解決策を見出すのがベストですが、企業によっては「合理的配慮とわがままの違いが分かりにくい」と感じることに直面することもあるかもしれません。
次の章からは、合理的配慮とわがままの違い、共に働く従業員に過度な負担がかかることへの懸念を紐解いていきましょう。
合理的配慮は、周囲から「特別扱い」や「わがまま」と誤解されてしまうことがあります。
わがままとは、自分の都合だけを考えて第三者の都合を顧みずに、自分勝手な行動や発言をすることをいいます。
障がいは個人によって辛さや我慢できる範囲が異なります。そのため、社会参入のために必要な合理的配慮についても「特別扱いされている。ずるい」と反応されてしまうことがあります。
しかし、合理的配慮を必要とする人と、そうでない人との間には格差があることを理解すべきです。
その格差を埋めて、同じスタートラインに立つために必要なのが合理的配慮の提供です。
合理的配慮の提供について社内で反発が起こりそうな時は、研修や勉強会を実施して、「社会設計はマジョリティ(多数派)が過ごしやすいように構築されていること」、「マジョリティ以外の人もできる限り同じ環境で仕事をするために工夫が必要であること」を周知しておくと良いでしょう。
職場における合理的配慮とわがままは、次の3つのポイントで線引きすることができます。
わがままは、個人の快適さを追求するもので、職務に直接関係がない要望です。
一方で、合理的配慮は配慮することが職務遂行に直結している要望を意味します。バリアとなる事柄を取り除くことで、業務遂行の困難さを軽減することができます。
例えば、「指摘を受けると萎縮してしまうので、指示や注意の内容を告知してから指導してほしい」というのは合理的配慮ですが「指摘されるのが苦手なのでミスをしても指導しないでほしい」というのは、わがままになります。
2つめのポイントは、合理的配慮が障がい特性や根拠に基づいているかどうか、です。
例えば、新しい環境に慣れるまで時間がかかるので時短勤務で調整したいという場合は、許可することで特性に合わせて働けるため合理的配慮に相当します。
しかし、新しい環境が不慣れなので自由に早退や無断欠勤をさせてほしいという要望は、「自由に欠勤できれば新しい環境に慣れやすい」という根拠がないとわがままになります。
公平性をないがしろにすると、社内から「ずるい」という反発が出やすく、結果として障がい者の方がいづらくなったり、仕事がしにくくなったりする恐れがあります。
政府の提唱する「合理的配慮の提供」においても、人的・体制上の制約を逸脱しない範囲で配慮が過重な負担にならによう判断すべきとされてます。
優遇ではなく、バリアを取り除くための対処として、できることをしていきましょう。
タクシーの通勤を認める、業務をサポートするために専門の人員を毎日配置するといった措置は、公平性の点で他の従業員の反発を招きやすくなります。
電車移動が難しい場合は、タクシーではなく時差出勤やリモートワークを検討する、サポートが必要な場合はアラームやスケジュール表といったツールを活用するといった対応が合理的配慮としての現実的な手段です。
周囲に「ずるい」という感情を抱かせない合理的配慮を実施するためには、周囲への研修を実施すると共に、「対話」と「ガイドラインの作成」が必要です。
まず、障がい者本人が困難な状況を申し出て、ヒアリングを実施することが何より重要です。
具体的にどのような困難さがあるか、今置かれている状況がどのようなものなのかを共有することで、働きやすい環境を整えることができます。
・ヒアリング
・具体的な困難の特定
・解決策の検討
・解決策の実施
という4つのプロセスを意識して合理的配慮を実施していきましょう。
ヒアリングなしに、周囲の人が一方的に配慮を行うことは避けるべきです。まず困難さを共有した上で合意形成が成り立ちます。
具体的な困難を特定し、解決策が決まったらガイドラインを作成します。
ガイドラインを作成することで、職場の従業員全員が障がい者の方の困難を理解し、適切な職場環境づくりに対して同じイメージを共有することができます。
ガイドラインには具体例などを分かりやすく示すことで、周囲の従業員からの反発をおさえることもできます。
なお、ガイドラインは、一度作成して終わりではなく、就労の状況や本人の働きやすさを考慮して、必要があれば変更を加えていくことも重要です。
ヒアリングとガイドライン作成に際して、企業の「過度な負担」について知っておきましょう。
過度な負担とは、特例的な措置を行う上で企業や周囲の人に大きな負担がかかることをいいます。
・軽作業を伴う職場でリモートワークを許可する
・オフィスのフロアすべてをバリアフリー化する
・電車利用が困難なためタクシーで通勤する際の費用を全額負担する
こうした措置は、費用や人的な負担が大きいため、「合理的ではない」と判断されます。
とはいえ、何を合理的と判断し、何を合理的でないとするかは企業の規模や個人の困難さによってケースバイケースです。
両者が納得して合意するためには、ヒアリングした内容を無理のない解決策に昇華させる必要があります。
次のような理由で障がい者と障がいのない人と異なる取扱いをすると、「不当な差別的取扱い」をしたとみなされることがあります。
・前例がないことを理由に対応しない
・漠然としたリスクの可能性を理由に対応しない
・障がい者に我慢を求めて環境を変えない
・〇〇な人は〜〜だから、と一律に判断する
ただし、前述のように合理的配慮は無理のない範囲で措置を講じていくことも同じくらい重要です。
判断や対応に困った時は、障がい者差別に関する相談窓口「つなぐ窓口」や、ZEROのような就労支援サポートの知見がある事務所へ相談してみてください。
合理的配慮は、障がいのある方が安心して長く働くために欠かせないものです。
就労支援を行うZEROでは、働く不安、雇用する不安に寄り添いながら、一人一人の長期的な就労サポートを実施しています。
合理的配慮の申し出に悩んでいる方や、環境整備について具体例を知りたい事業者の方は、お気軽にお問い合わせください。
知見を共有し、全力でサポートいたします。
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