2025/08/28
障がい者雇用は、多くの企業にとって重要な社会的責任です。
本記事では、法定雇用率の概要や未達成時のペナルティについて解説し、企業が取り組むべき具体策を考察します。
ZEROは、障がい者雇用を進めたい事業主様と、自分に合った仕事を無理なく始めて勤め続けたいと考える障がい者の方をつなぐ活動を行っています。
それぞれに合った方法を提案することで、双方が安心して向き合える環境づくりができると考えています。
法定雇用率の概要と、業種別の設定基準について説明します。
具体的な雇用割合や法律改正のポイントについて、詳しく見てみましょう。
法定雇用率は、段階的な引き上げが行われています。令和5年度は2.3%が据え置かれ、今後の引き上げが予定されています。
新しい雇用率については計画的に対応できるよう、以下のように段階的な引き上げが許可されています。
令和5年度:2.3%(平成30年4月から据え置き)
令和6年度:2.5%
令和8年度:2.7%
なお、国・地方公共団体等の雇用率は3.0%、教育委員会は2.9%です。これらも民間企業同様、引き上げが行われる予定です。
「労働者40.0人に対して障がい者1人」という人員配置が基本ですが、計算式を使うことで、実際に雇用すべき障がい者の数を算出することができます。
雇用すべき障がい者の人数(小数点切り捨て)=
(常用従業員数+短時間従業員数×0.5)×障がい者雇用率(2.5%)
例として、AとBという2つの企業について算出してみましょう。
【企業A】
・従業員100人(常勤50名/短時間50名)の場合
(50+50×0.5)×2.5%=1.875
【企業B】
・従業員500人(常勤300名/短時間200名)の場合
(300+200×0.5)×2.5%=10
この計算式では小数点以下を切り捨てるため、企業Aは1人の障がい者を、企業Bは10人の障がい者を雇用する必要があることが分かります。
ただし、人数に関しては下記の計算表に基づいて算出することができるため、必ずしも全員が長時間雇用を前提とするわけではありません。
【実雇用率のカウント方法】
週所定労働時間 |
30h〜 |
20h〜30h未満 |
10h〜20h未満 |
---|---|---|---|
身体障がい者 |
1 |
0.5 |
ー |
身体障がい者(重度) |
2 |
1 |
0.5 |
知的障がい者 |
1 |
0.5 |
ー |
知的障がい者(重度) |
2 |
1 |
0.5 |
精神障がい者 |
1 |
1 |
0.5 |
以前の法定雇用率は2.5%でしたが、今後引き上げが予定されています。
この場合、40人以上雇用している企業が障がい者雇用義務の対象となります。
ですが、2026年7月には法定雇用率が2.7%に引き上げられます。
2.7%になると、従業員が37.5人以上の企業も雇用義務の対象となります。
この対象とならないのは、除外率制度で定められた業種の企業です。
製造業や医療業、児童福祉事業などは、業種別に除外率が定められており、必ずしも2.5%ないし2.7%の雇用が義務ではありません。
しかし、除外率制度についてもノーマライゼーションの観点から、段階的な引き下げが行われています。
法定雇用率と実雇用率については、先月のブログもご参照ください。
2026年7月には法定雇用率が2.7%に引き上げられますが、ある調査によると6割の企業が「2.7%の達成は困難である」と考えていることが明らかになっています。
しかし、障がい者雇用とDEI施策は連動しており、加速する少子高齢化へ向けて、人材確保・定着を目指すためにも重要です。
DEI施策とは、Diversity(ダイバーシティ:多様性)、Equity(エクイティ:公平性)、Inclusion(インクルージョン:包容性)を組織に取り入れて、多様な従業員が活躍できる環境を整備する取り組みのことです。
DEI施策の実施により、人材の定着、企業価値の向上と創出が期待できます。
止まらない少子高齢化により、人材の確保は年々難しさを増しています。
法定雇用率の引き上げは、こうした社会情勢にとって追い風になるかもしれません。
定められた法定雇用率を達成できない場合、障がい者雇用納付金制度に準じた徴収と、行政指導、企業名公表といったペナルティが課せられます。
ここでは、未達成の場合に直面する「障がい者雇用納付金制度」と、その計算方法、行政指導や企業名公表がどのように行われるのかを具体的に解説します。
障がい者雇用納付金制度とは、障がい者雇用率が法定雇用率に達していない企業が、不足している人数に応じた金額を納めることを定めた制度です。
対象となるのは、常時雇用労働者が100人を超える事業主で、不足している障がい者1人あたり50,000円(月額)を納める必要があります。
納付はペイジー(インターネットバンキング)か、金融機関窓口で行います。
納付義務があるにも関わらず期限を過ぎても支払いを行なわない場合、督促状が届きます。
その督促状に記載された指定期限を過ぎてもなお支払いを行わない場合は、年14.5%の延滞金が発生します。
延滞金は、支払いまでの日数に応じて加算され、滞納処分として財産差し押さえが行われることもあります。
なお、このように徴収された納付金は調整金、助成金、報奨金等に充てられます。
納付金が充てられている制度には、次のようなものがあります。
【調整金】
・障がい者雇用調整金
・在宅就業障がい者特例調整金
・報奨金
・在宅就業障がい者特例報奨金
【助成金】
・障がい者作業施設設置等助成金
・障がい者福祉施設設置等助成金
・障がい者介助等助成金
・重度障害者等通勤対策助成金
・重度障害者多数雇用事業所施設設置等助成金
行政指導は、法定雇用率が未達成かつ、障がい者雇用の取り組みが不十分であるとみなされた場合に実行されます。
行政指導と企業名公表のプロセスは、次のように進みます。
【1. 障がい者雇入れ計画作成命令】
管轄のハローワークより命令が下されます。命令を受けた企業は、雇入れ計画書を2年分作成し、計画を遂行しなければなりません。
【2. 雇入れ計画の適正実施勧告】
計画1年目で実行状況が不十分とみなされると、ハローワーク所長から「雇入れ計画の適正実施勧告」が出されます。
【3. 特別指導】
適正実施勧告後も計画の遂行を怠っていると判断されると、企業名の公表を前提とした特別指導が行われます。
特別指導は、雇入れ計画期間の終了後、9ヶ月間にわたって実施されます。
この特別指導で公表基準を上回った場合、あるいは「実雇用率が全国平均実雇用率以上(2.25%)である」、「不足数が0名である」といういずれかを満たした場合、企業名の公表を回避することができます。
【4. 企業名の公表】
特別指導後も改善がみられない場合、プレスリリースや厚生労働省のホームページに企業名が公表されます。
不足数が極端に多い場合は、厚生労働省から直接指導が実施されることもあります。
また、公表後も改善が認められない場合は、再度その旨を公表されることもあります。
現在、厚労省のホームページでは、不動産会社、電気・通信工事会社、靴の輸入・販売事業社などが「障がい者の雇用状況に改善が見られない企業」として公表されています。
具体的な企業名については、厚生労働省のHPをご覧ください。
障がい者雇用を適切に推進するには、ハローワークや福祉機関によるサポートが不可欠です。
さらに、助成金や特例子会社や就労支援事業を活用することで、無理なく働き続ける就労定着を目指すことができます。
ハローワークでは、職域開拓、雇用管理、職場環境整備についての相談を受け付けています。また、トライアル雇用や職場適応援助者による支援、適応訓練等を実施しています。
また、ZEROのような就労支援事務所も、障がい者の就職活動支援、定着支援を通じて、企業の障がい者雇用をサポートしています。
当事務所では、特に「定着」に重きをおいており、2024年12月時点での定着率が約90%と高い数字を維持しています。「長く働く」をサポートすることは、企業にとっての安定的な障がい者雇用につながっていきます。
障がい者を雇い入れる際には、「特定求職者雇用開発助成金」や「トライアル雇用助成金」といった助成金が受け取れる場合があります。
また、施設環境を整えたり雇用管理の措置を行う場合には「障がい者雇用納付制度に基づく助成金」を利用できることがあります。
さらに正社員として働くことを支援するため、職場定着を目的とした「キャリアアップ助成金」もあり、これらの助成金を活用することで、安心して障がい者の雇入れを実施することができます。
特例子会社制度とは、事業主が障がい者の雇用に特別に配慮した子会社を設立した場合、特例として子会社に雇用されている労働者を親会社の実雇用率に算定できる制度のことです。
親会社と人的関係が緊密であること、雇用される障がい者が5人以上であること(全従業員の20%以上)、重度身体障がい者・知的障がい・精神障がい者の割合が30%以上であることなど、いくつかの要件を満たすことでこの制度を利用することができます。
少子高齢化が進む日本社会では、多様性を重んじる障がい者雇用をさらに進めていく必要があるでしょう。
企業にとって雇用率の達成は困難な課題かもしれませんが、ハローワークやZEROのようなサポートを利用いただくことで、安定した雇用を整えることができます。
利用できる助成金や制度を精査することで、無理のない雇入れ計画に実行も可能になります。
今後も、法定雇用率は引き上げが予測されています。
現在は法定雇用率を達成している場合も、数年後の引き上げを考慮して積極的に障がい者雇用拡大を検討していくのが良いかもしれません。
2025/07/29
障がい者法定雇用率の最新情報は、企業にとってかかせません。
本ブログでは、制度の基本から2025年最新の基準まで、企業がいま注意すべき点を解説します。
企業や業態にあわせた障がい者雇用の方法をお探しの場合は、ZERO(ゼロ)がお力になります。
お気軽にご相談ください。
障がい者法定雇用率制度の基本と2025年の最新情報を順番に見ていきましょう。
障がい者雇用率制度とは、従業員が一定以上在籍している企業は、決められた割合の障がい者を雇用するように、という決まりのことです。
これは「障がい者雇用促進法43条第1項」に定められ、事業主に義務づけられています。
制度において、民間企業の法定雇用率は2.5%と決まっています。
例えば、40人以上従業員のいる企業の事業主は、障がい者を1人以上雇用しなければなりません。
なお、制度で定められている障がい者とは、身体障がい者・知的障がい者・精神障がい者を指します。
義務を履行しない事業主にはハローワークが行政指導を行います。
実雇用率とは、その企業で実際に雇われている障がい者の割合のことです。
制度を詳しく見ていくと、法定雇用率と実雇用率という2つのワードが出てきて混乱する方もいるかもしれません。
これら2つの用語は、ほとんど同じ意味としてとらえて問題ありません。
しかし、数字に関しては注意が必要です。
障がい者雇用率制度は、誰もが職業を通じて社会参加ができるように定められた法律であり、日本が「共生社会」として機能するために重要な制度です。
そのため、事業主は法定雇用率以上の割合で障がい者雇用を推進していくことが求められます。
ゆえに、実際は法定雇用率以上の割合で障がい者が働いていることが望ましく、実雇用率の方が上回る必要が出てきます。
法定雇用率は、はじめから2.5%に固定されていたわけではありません。
1987年までは1.5%で、その後少しずつ引き上げられてきました。
推移は以下の通りです。
1.6%(1988〜1998年)
1.8%(1999〜2012年)
2.0%(2013〜2017年)
2.2%(2018〜2020年)
2.3%(2021〜2023年)
2.5%(2024~2026年)
2.7%(2026~2028年)
制度は2024年6月1日に再度改正されて、現在の2.5%になりました。
この推移をみると、障がい者雇用率は年々上昇していることが分かります。
今後も、数年おきのタイミングで引き上げが行われる可能性もあるでしょう。
先には、実雇用率が法定雇用率を上回っている必要があると紹介しましたが、上昇を見越して雇用率を高めていく中長期的な計画も、同時に必要となってくるかもしれません。
さて、障がい者雇用率制度について基本をおさらいしたところで、いよいよ2025年の最新情報についてみていきましょう。
2025年現在、民間企業の法定雇用率は2.5%に定められています。
ここから、雇用率算定方法を割り出すことができます。
法定雇用率制度には、特定の業種に適用される除外率制度も存在します。
こちらも年度によってパーセンテージが変更になっているので、細かくチェックしておく必要があります。
実際に数字と式を使って、分かりやすく見てみましょう。
例:150人(常用雇用労働者)×2.5%(法定雇用率)=3.75人
上記のような場合、小数点以下は切り捨てのため、雇用人数は3人となります。
しかし、障がいをもっている従業員の数が、そのまま算定対象となるわけではありません。
・1週間あたりの総労働時間
・障がいの程度
この2つの基準によってカウント数が異なります。
週所定労働時間 |
30h以上 |
20h〜30h未満 |
10h〜20h未満 |
---|---|---|---|
身体障がい者 |
1(重度:2) |
0.5(重度:1) |
ー(重度:0.5) |
知的障がい者 |
1(重度:2) |
0.5(重度:1) |
ー(重度:0.5) |
精神障がい者 |
1 |
1 |
0.5 |
なお、算定対象になる方は、どのような障がいの場合も原則として障がい者手帳、あるいは認定書類を有していることが必須となります。
参照:厚生労働省「障害者雇用のご案内〜共に働くを当たり前に〜」
https://www.mhlw.go.jp/content/000767582.pdf
除外率制度とは、一般的に障がい者の就業が困難とされている業種において適用されます。
この場合、除外率に当てはまる労働者数は控除されて、障がい者の雇用義務は軽減されることになっています。
しかし、この除外率制度は、現在「段階的縮小」の経過措置がとられていることに注意してください。
平成14年、ノーマライゼーション(標準化:社会的少数者に対して、一般の人と同じ生活と権利が保障されること)の一環として、障がい者雇用促進法の改正が行われました。
その一環として、除外率制度も段階的に引き下げを行い、完全廃止を目指す方向で社会が進んでいます。
2025年現在、除外率制度の対象となっている業種と除外率は、以下のとおりです。
・非鉄金属第一次製錬/精製業/貨物運送取扱業(集配利用運送業除く):5%
・建設業/鉄鋼業/道路貨物運送業/郵便業(信書便事業含む):10%
・港湾運送業/警備業:15%
・鉄道業/医療業/介護老人保健施設/介護医療院/高等教育機関:20%
・林業(狩猟業除く):25%
・金属鉱業 ・児童福祉事業:30%
・特別支援学校(視覚障害者に対する教育を行う学校除く):35%
・石炭/亜炭鉱業:40%
・道路旅客運送業 /小学校:45%
・幼稚園/幼保連携型認定こども園:50%
・船員等による船舶運航等の事業:70%
参照:厚生労働省「除外率制度について」
https://www.mhlw.go.jp/content/001133551.pdf
法定雇用率制度には、いくつかの特例があります。
よく知られているのは、「特例子会社制度」です。
特例子会社制度は、事業主が障がい者に配慮した業務を行える子会社を親会社とは別に設立し、障がい者を雇用する制度です。
この場合、子会社で雇用されている障がい者は、親会社に雇用されているとみなされ、実雇用率を算定することが可能です。
他に、複数の事業主で実雇用率を通算できる「企業グループ算定特例」や、組合を利用して協同事業を行うことで通算が可能になる「事業協同組合算定特例」などがあります。
実雇用率が低いとペナルティがありますが、法定雇用率以上の雇用を達成している企業には、さまざまな支援制度が適用されます。
実雇用率が法定雇用率を下回った場合、障がい者雇用納付金を支払う必要があります。
納付金は不足する障がい者一人につき、月額50,000円です。
このペナルティは、常時雇用労働者数が100人を超える企業が対象です。
障がい者雇用調整金とは、法定雇用率を超えて障がい者を雇用している企業を支援する目的で支給されています。
金額は、法定雇用率を超えている障がい者一人につき、月額29,000円と定められています。支給対象人数が年120人月を超える場合は、超過人数分が一人あたり月額23,000円に減額されます。
先ほど紹介した、法定雇用率を下回った場合に支払う「障がい者雇用納付金」は、この障がい者雇用調整金に充てられます。
なお、この調整金制度も常時雇用労働者数が100人を超える企業が対象です。
規模と人数を満たしている企業の事業主が申請することで、調整金を受け取ることができます。
ほかにも、障がい者雇用に対する支援制度はあります。
例えば、在宅就業障がい者やその支援団体に対して仕事を発注した企業は、その旨を申請することで、在宅障がい者特例調整金の支給を受ける、あるいは障害者法定雇用率未達成の場合に支払うべき障害者雇用納付金の減額ができます。
また、常時雇用労働者数が100人以下の企業であっても、障がい者の雇用数が一定以上の場合、一人あたり月額16,000〜21,000円の報奨金が支給される制度もあります。
誰もが暮らしやすい社会を目指して、日本では国を挙げて障がい者雇用促進に取り組み、制度を整えています。
ハローワークや就労支援施設を活用して、職場環境を整えていきましょう。
全国都道府県労働局とハローワークは、求人受理や紹介を通じて障がい者雇入れの支援を行っています。
障がい者雇用セミナーや職場等見学会、「精神・発達障がい者しごとサポーター養成講座」をはじめとした、適応支援事業、雇用促進の取り組みが実施されており、相談窓口では、上司・同僚、人事担当者からの相談に対応しています。
障がい者雇用は、採用がゴールではありません。職場に適応し、長く働いてもらえることが大切です。
そのため、国の機関では、専門の支援者による定着支援が実施されています。
ハローワークなどでは、障がい者本人の業務遂行力や、コミュニケーションスキルの向上を目指したりする講習が実施されています。
さらに、職場定着に必要なことをヒアリングして個別的なサポートを実施することで、一人一人に合わせた支援を実現しています。
障がい者法定雇用率は、段階的に引き上げられています。
法定雇用率制度の除外率制度や、支援制度も、細かな変更が繰り返されているため、最新の情報は厚生労働省の公式発表を確認すると良いでしょう。
雇用計画を立てる際は、雇用率の引き上げを見越して数年単位で障がい者雇用の割合を増やしていく、短時間雇用を活用する、などの対策もあわせて検討してみてください。