
2025/10/31
法定雇用率の段階的な引き上げ予測と、全国的な達成状況についてご存知ですか?
雇用率の達成は、ノーマライゼーションの理念に基づく共生社会の実現と深く関わっていますが、給付金制度などを活用して企業だけが頑張り過ぎないことも重要です。
就労支援と「長く、安心して働く」ためのサポートを実施しているZEEROが、2025年最新の法定雇用率を取り巻く現況について、法改正の経緯を含め包括的にお伝えします。
障害者雇用促進法は1976年に前身となる「身体障害者雇用促進法」が制定されてから、何度も改訂を重ねて現在の形になりました。現在の形も完成形というわけではなく、時代に合わせて今後もさらなる改定が加えられていくことでしょう。
法が制定された経緯と改正の歴史について簡単にご紹介します。
「障害者雇用促進法」の前進となる「身体障害者雇用促進法」は、1960年に制定されました。
日本は高度経済成長期にあり、世界各国でも障害者雇用が積極的に行われる機運が高まっていた時代です。
しかし、この法で掲げられたのはあくまで努力目標であり、対象も身体障害者のみであるなど限定的なものでした。
この「身体障害者雇用促進法」は1976年に改正されます。改正に伴い、法定雇用率の達成は努力目標でなく「義務」へと変わりました。
そして達成できない企業からは納付金を徴収するようになり、これを財源として雇用給付金制度が設けられました。雇用給付金は、障害者雇用を積極的に行う企業に対して調整金や助成金という名目で給付されるようになります。
さらに11年の時を経て、1987年に「身体障害者雇用促進法」は現在の「障害者雇用促進法」へと改名されます。
追って1998年には知的障害者が、2018年には精神障害者が「障害者雇用促進法」の適用範囲へと加わりました。
改正の動向として特に注目したい数字が「法定雇用率」です。
法定雇用率は1976年から現在に至るまで、年々引き上げられてきました。
1976年10月:1.5%
1988年4月:1.6%
1998年7月:1.8%
2013年4月:2.0%
2018年4月:2.2%
2021年3月:2.3%
2024年4月:2.5%
2026年7月:2.7%(予定)
2025年現時点での法定雇用率は2.5%ですが、来年度(2026年)には2.7%に引き上げられることが決定しています。
障害のある人もそうでない人も暮らしやすい共生社会実現のため、そして人手不足解消のためにも、段階的に法定雇用率の引き上げは続いていくでしょう。
障害者雇用をCSR(Corporate Social Responsibility/企業の社会的責任)の指標として掲げる企業も増えてきており、「障害者雇用促進法」が企業の信頼性向上に寄与している側面も見逃すことはできません。
近年の改正動向でもう一つ注目したいのが、「算定方法」に関する部分です。
身体障害者、知的障害者を一人雇用しているとカウントされるためには、一人につき週30時間の雇用が必要ですが、精神障害者の雇用は週20時間以上で一人とカウントされます。
これは、精神障害者の職場定着を進めるために設定された特例措置ですが、当面の間継続されます。
また、以前は原則週20時間以上の常用労働者のみが算定の対象とされていましたが、現在は20時間未満であっても、0.5人としてはカウントできるようになっています。
改正の歴史を振り返ったところで未来に目を向けてみましょう。
2025年以降の引き上げスケジュールと、厚労省が発表している達成率についてみていきます。
実は、法定雇用率は事業主の区分によって違いがあります。
2025年10月時点で、それぞれの区分別の法定雇用率は次のようになっています。
民間企業:2.5%
都道府県の教育委員会:2.7%
国・地方公共団体:2.8%
先に挙げたように、2026年7月には民間企業の法定雇用率が2.7%に引き上げられます。
また、今後は2030年に向けて3.0%程度に引き上げが続くのではないかという予測もあり、現在は達成率ギリギリの雇用状態である場合、今後に向けてさらに障害者雇用を拡大していく必要があります。
引き上げを見越して企業戦略を構築していきましょう。
法定雇用率に関する厚労省発表データは、2024年のものが最新です。
「障害者雇用状況の集計結果」では、雇用障害者数は過去最高を更新しているものの、法定雇用率達成企業の割合は46.0%と、対前年比で4.1ポイント低下する結果になっています。
このデータからは雇用数自体は増えているものの、達成率の引き上げに追いついていないという現状がみてとれます。
障害別のデータでは、精神障害者の雇用者数がもっとも伸び率が大きく、改正によって算定方法が変化したことが雇用を後押ししていることが分かります。
身体障害者の雇用者:36万8,949.0人(対前年比2.4%増)
知的障害者の雇用者:15万7,795.5人(対前年比4.0%増)
精神障害者の雇用者:15万717.0人(対前年比15.7%増)
※参照資料「厚生労働省 令和6年 障害者雇用状況の集計結果」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_47084.html
2024年の未達成企業は、6万3,364社でした。
しかし、その過半数である64.1%が0.5人ないし1人が不足している企業であり雇用に向けて積極的に努力をしている企業が大半であることが窺えます。
一方で、一人も障害者を雇用していないいわゆる0人雇用企業も3万6,485社あります。
障害者雇用の義務を怠ると、状況報告書の提出や行政指導・改善勧告の対象になります。また悪質な場合は企業名が厚労省のサイトで公開されるため、ブランドイメージ低下が決定的なものとなってしまいます。
障害者の雇用率を達成するためには、企業のソフト面とハード面のアップデートが必要です。
障害者雇用は特別なことから、当たり前のことになりつつあります。
障害の有無に関わらず、互いに支え合う社会を目指すことをノーマライゼーションといいますが、この理念を理解することがアップデートの第一歩となります。
採用プロセスや人材開発プログラムの見直しをするとともに、働く人たちにノーマライゼーションの理念を共有してもらい、職場に理解を深めることが「ソフト面」の整備には欠かせません。
ハード面では、支援機関との連携や現場の具体的な受け入れ体制づくりが重要になります。
これについては、厚労省が給付金制度などを整えているため、支援を活用しながら働きやすい環境を構築していくと良いでしょう。
法定雇用率が引き上げられると、その達成が難しいと考える事業主も増えてきます。
厚労省は雇用率達成のために障害者雇用調整助成金、職場定着支援、ジョブコーチ派遣、設備改善助成金といった支援策を用意しているので、上手に活用して達成を目指すと良いでしょう。
障害者雇用調整助成金は、雇用率以上の障害者を雇用している事業主に対する支援策です。
法定雇用率を超えた障害者数に応じて月額2万3,000〜2万9,000円が支給されます。
障害者雇用は、職場環境の整備や管理、設備の改善など経済的な負担が生じることがありますが、助成金によってこの一部を賄うことができるはずです。
障害者職場定着支援コースは、障害特性に合わせた雇用管理や柔軟な働き方のための措置を講じる事業主に対する支援策です。
職場定着支援計画の認定を受けた上で、通院・治療のための有給休暇付与、職場支援、中高年障害者の雇用継続支援などの必要な措置を実施すると、助成金が支給されます。
ジョブコーチとは「職場適応援助者」のことです。
障害者の職場適応が難しい場合、ジョブコーチに出向してもらい、特性を踏まえた専門的な支援を受けることができます。
ジョブコーチには、「配置型」、「訪問型」、「企業在籍型」の3つがあります。
配置型ジョブコーチは地域障害者職業センターに配置されていて、訪問型・企業在籍型のジョブコーチと連携して必要な支援が行われるよう援助する存在です。
訪問型ジョブコーチは、厚生労働大臣が定める研修を修了した者で経験や能力が豊富です。社会福祉法人などに雇用されています。
企業在籍型ジョブコーチは、障害者を雇用する企業に雇用されるジョブコーチのことです。こちらも機構や厚生労働大臣の定める所定の研修を修了している者が活動しています。
設備改善助成金には、障害者作業施設設置等補助金、障害者福祉施設設置等助成金があります。これは障害者を雇用する際に、仕事がしやすいように配慮された施設を作ったり、改造したりする必要がある際に助成が受けられる制度です。
障害者雇用は、法定率によって「義務」とされています。
しかし、近年ではその価値観が社会的責任の履行に伴う企業のブランドイメージ向上や、信頼性向上のための戦略へと変化しつつあります。
とはいえ、障害者が働きやすい環境を新しく整備したり、配慮が行き届いた職場へアップデートしたりするのは費用と時間というコストがかかります。
実現を支援する制度を上手に活用して、無理なく進めていくのが良いでしょう。
法定雇用率はクリアしなければならない数字ですが、達成のためには社会や企業が成熟している必要があります。
言い換えれば、あと0.5人や1人で雇用率を達成できる企業は、ノーマライゼーションの理念がほぼ浸透しており、企業としてほぼ成熟しているとみることができます。
障害のある人とない人が共に働くことは、特別なことではなく当たり前であるという理解を深めることが、段階的に引き上げられる2025年以降の達成率をクリアしていくのに必要なことではないでしょうか。

2025/09/30
合理的配慮とは、障がい者が非障がい者と同じように働いたり勉強したりできるよう、制限のバリアを取り除くための行動、措置をいいます。
合理的配慮の提供は2024年から義務化されましたが、配慮を「特別扱い」と取り違えられるケースも多く、周囲から「ずるい」と反感を買ってしまうケースもみられます。
本記事では、合理的配慮が義務化された経緯とその定義を解説し、企業がどのような合理的配慮を実施するべきか、具体例を紹介しながらまとめています。
合理的配慮は、障害のある人の活動を制限するバリアを、さまざまな形で取り除くための配慮のことです。
まずは、「合理的配慮」の定義と、成立に至った経緯や対象となる範囲についてみてみましょう。
合理的配慮とは、「障害のある人の社会的なバリアを取り除くため、事業者側の負担が重すぎない範囲で必要な対応をすること」です。
政府広報では、合理的配慮の提供には障がい者と事業者の対話が重要であり、共に解決策を導き出す必要があると啓蒙しています。
日本では、2021年に「障害者差別解消法」が改正されました。
そして、この改正法は2024年4月1日から施行されています。
改正以前、「合理的配慮の提供」は、行政機関は義務、事業者は努力義務となっていましたが、この改正により事業者に対しても合理的配慮の提供が義務化されました。
合理的配慮を提供しないと、差別的取扱いをしたとみなされる場合があります。
合理的配慮の提供が必要な対象範囲は、身体・知的・精神・発達など心身の機能に何らかの障がいを負っているすべての障がい者が対象です。
障がい者手帳を所持していなくても、学校生活や仕事において長期にわたる制限を受けている、あるいは困難な状況にある場合は、等しく対象となります。
なお、病気や怪我で一時的に身体の制限がある場合は、原則として合理的配慮の対象とはなりません。
合理的配慮は、「物理的環境への配慮」、「意思疎通への配慮」、「ルール・慣行の柔軟な変更」の3つの種類に大別することができます。
物理的環境への配慮の具体例としては、飲食店やオフィスなどで車椅子のまま着席できるスペースを設けることが挙げられます。
意思疎通への配慮は、聴覚障がい者のために筆談を活用する、弱視でも読みやすいように大きな太い文字で資料を作成する、口頭指示の理解が難しい人へ文書を作成して対応する、などが具体例として挙げられます。
ルール・慣行の柔軟な変更については、聴覚過敏の場合にイヤホンをつけて仕事をすることを許可する、時間管理をしやすくするためにアラームを活用する、満員電車が難しい従業員のために時差出勤やリモートワークを許可する、文字の読み書きに時間がかかる人に資料の撮影を許可するといったことが具体例として挙げられます。
いずれも、障がいや特性を理解してそれぞれに合った配慮が求められます。
対話を重ねて解決策を見出すのがベストですが、企業によっては「合理的配慮とわがままの違いが分かりにくい」と感じることに直面することもあるかもしれません。
次の章からは、合理的配慮とわがままの違い、共に働く従業員に過度な負担がかかることへの懸念を紐解いていきましょう。
合理的配慮は、周囲から「特別扱い」や「わがまま」と誤解されてしまうことがあります。
わがままとは、自分の都合だけを考えて第三者の都合を顧みずに、自分勝手な行動や発言をすることをいいます。
障がいは個人によって辛さや我慢できる範囲が異なります。そのため、社会参入のために必要な合理的配慮についても「特別扱いされている。ずるい」と反応されてしまうことがあります。
しかし、合理的配慮を必要とする人と、そうでない人との間には格差があることを理解すべきです。
その格差を埋めて、同じスタートラインに立つために必要なのが合理的配慮の提供です。
合理的配慮の提供について社内で反発が起こりそうな時は、研修や勉強会を実施して、「社会設計はマジョリティ(多数派)が過ごしやすいように構築されていること」、「マジョリティ以外の人もできる限り同じ環境で仕事をするために工夫が必要であること」を周知しておくと良いでしょう。
職場における合理的配慮とわがままは、次の3つのポイントで線引きすることができます。
わがままは、個人の快適さを追求するもので、職務に直接関係がない要望です。
一方で、合理的配慮は配慮することが職務遂行に直結している要望を意味します。バリアとなる事柄を取り除くことで、業務遂行の困難さを軽減することができます。
例えば、「指摘を受けると萎縮してしまうので、指示や注意の内容を告知してから指導してほしい」というのは合理的配慮ですが「指摘されるのが苦手なのでミスをしても指導しないでほしい」というのは、わがままになります。
2つめのポイントは、合理的配慮が障がい特性や根拠に基づいているかどうか、です。
例えば、新しい環境に慣れるまで時間がかかるので時短勤務で調整したいという場合は、許可することで特性に合わせて働けるため合理的配慮に相当します。
しかし、新しい環境が不慣れなので自由に早退や無断欠勤をさせてほしいという要望は、「自由に欠勤できれば新しい環境に慣れやすい」という根拠がないとわがままになります。
公平性をないがしろにすると、社内から「ずるい」という反発が出やすく、結果として障がい者の方がいづらくなったり、仕事がしにくくなったりする恐れがあります。
政府の提唱する「合理的配慮の提供」においても、人的・体制上の制約を逸脱しない範囲で配慮が過重な負担にならによう判断すべきとされてます。
優遇ではなく、バリアを取り除くための対処として、できることをしていきましょう。
タクシーの通勤を認める、業務をサポートするために専門の人員を毎日配置するといった措置は、公平性の点で他の従業員の反発を招きやすくなります。
電車移動が難しい場合は、タクシーではなく時差出勤やリモートワークを検討する、サポートが必要な場合はアラームやスケジュール表といったツールを活用するといった対応が合理的配慮としての現実的な手段です。
周囲に「ずるい」という感情を抱かせない合理的配慮を実施するためには、周囲への研修を実施すると共に、「対話」と「ガイドラインの作成」が必要です。
まず、障がい者本人が困難な状況を申し出て、ヒアリングを実施することが何より重要です。
具体的にどのような困難さがあるか、今置かれている状況がどのようなものなのかを共有することで、働きやすい環境を整えることができます。
・ヒアリング
・具体的な困難の特定
・解決策の検討
・解決策の実施
という4つのプロセスを意識して合理的配慮を実施していきましょう。
ヒアリングなしに、周囲の人が一方的に配慮を行うことは避けるべきです。まず困難さを共有した上で合意形成が成り立ちます。
具体的な困難を特定し、解決策が決まったらガイドラインを作成します。
ガイドラインを作成することで、職場の従業員全員が障がい者の方の困難を理解し、適切な職場環境づくりに対して同じイメージを共有することができます。
ガイドラインには具体例などを分かりやすく示すことで、周囲の従業員からの反発をおさえることもできます。
なお、ガイドラインは、一度作成して終わりではなく、就労の状況や本人の働きやすさを考慮して、必要があれば変更を加えていくことも重要です。
ヒアリングとガイドライン作成に際して、企業の「過度な負担」について知っておきましょう。
過度な負担とは、特例的な措置を行う上で企業や周囲の人に大きな負担がかかることをいいます。
・軽作業を伴う職場でリモートワークを許可する
・オフィスのフロアすべてをバリアフリー化する
・電車利用が困難なためタクシーで通勤する際の費用を全額負担する
こうした措置は、費用や人的な負担が大きいため、「合理的ではない」と判断されます。
とはいえ、何を合理的と判断し、何を合理的でないとするかは企業の規模や個人の困難さによってケースバイケースです。
両者が納得して合意するためには、ヒアリングした内容を無理のない解決策に昇華させる必要があります。
次のような理由で障がい者と障がいのない人と異なる取扱いをすると、「不当な差別的取扱い」をしたとみなされることがあります。
・前例がないことを理由に対応しない
・漠然としたリスクの可能性を理由に対応しない
・障がい者に我慢を求めて環境を変えない
・〇〇な人は〜〜だから、と一律に判断する
ただし、前述のように合理的配慮は無理のない範囲で措置を講じていくことも同じくらい重要です。
判断や対応に困った時は、障がい者差別に関する相談窓口「つなぐ窓口」や、ZEROのような就労支援サポートの知見がある事務所へ相談してみてください。
合理的配慮は、障がいのある方が安心して長く働くために欠かせないものです。
就労支援を行うZEROでは、働く不安、雇用する不安に寄り添いながら、一人一人の長期的な就労サポートを実施しています。
合理的配慮の申し出に悩んでいる方や、環境整備について具体例を知りたい事業者の方は、お気軽にお問い合わせください。
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